30年間の研究成果まとめる
「東洋の造形」出版
短大講師・画家の吉永邦治さん
インド、チベット、中国など広くアジア各地の仏教遺跡を、三年間にわたって巡礼した大谷女子短大講師で画家の吉永邦治さん(四八)=写真、明石市在住=が、その精力的なフィールド・ワークをまとめた「東洋の造形―シルクロードから日本まで」を出版した。
これまでの仏教図小の研究対象は、主に菩薩(ぼさつ)などが中心で、その周辺の「飛天」、「金剛力士」、「龍神」などは、あまり体系的に研究されていなかった。同書は、そうした欠落していた造形分野をカバーする貴重な研究書となる。
「例えば、『飛天』は、天にものぼる気分を形に表したものです。西洋では、翼を付けて飛びますが、東洋は、衣の受けた風の力で飛ぶのです。ロマンチックでしょう」。古代の人々は、喜怒哀楽といった心の様相を、自然現象、動物などに託し、それを彫刻に彫り、絵画にしてきた。吉永さんは東西交流の造形学的な見方から概観すれば、日本人の“心のひだ”のようなものが「パズル」のように分かってくるのではという。
空中を舞う「飛天」は、美しい花を散華(さんげ)し、音楽を奏しながら、仏をたたえ、仏世界を守るといわれている。吉永さんは、本書の中で。飛天の「生まれ故郷」「どこを飛翔しているのか」「性格」「持ち物」「天衣の伝説」などを縦糸に、インド、聖域、東南アジア、中国、日本と、各地の飛天の遺跡、遺物を横糸にして、飛天の魅力を引き出している。それぞれの民族独自の宇宙観、世界観が明確に浮かび上がり、吉永さんの、宗教学、民俗学、美学など守備範囲の広さを物語っている。
吉永さんは「東洋は、時間と空間だけでは、とられられないところがあります。この本は、三十年にわたって、実際に足で歩き、自分の目で見てきたことを書きつづった成果です」と話している。
(理工学社・三五〇二円)