吉永さんの絵を見ていると…
高 橋 義 人
現代美術はいまや衰亡の危機に瀕している。それは明らかに現代文明の危機と重なりあっている。今日のわれわれは、バウハウスのような機能美を迫求することも、レジェのように機械文明の抽象化された形態を賛美することももはやできない。 吉永さんは現代美術の危観を自覚するとともに、現代文明そのものに背を向けて、新しい絵画空間を切り開こうとしている。
シルクロードやモンゴルに題材をとった作品が多いのも、そのためであろう。
吉永さんは文明から隔絶した土地を見つけたのだ。現代文明に疲れていない人々、大自然に包まれて暮らしている人々、自分の馬とほとんど一体となっている人々、純朴な心を持っている人々を 吉永さんの絵を見ていると、ぼくたちがとうの昔に忘れさってしまった世界、人間にとって根源的な世界に引き戻される。その世界を「自然と人間との共生」と名づけることは容易い。しかし、そのようにして自然と共生している人々がいかに生き生きと暮らしているかは、吉永さんの絵を直接に見なければ分かるまい 吉永さんの絵は、自分自身の生き方を反省する機会をぽくたちに与えてくれるのである。
(京都大学教授)