悠久を生きる民との語らい
草原の歌
吉 永 邦 治
大自然にいだかれた、どこまでも続く海原のような草原が、他にあるであろうか。
青い空に、白い雲が浮かんで、草原なのか、天空なのか、はっきりしないなかに、ポツン、ポツンと白いパオが、地平線のかなたまでつづいている。厳寒期には、気温がマイナス四十度にも下がるという過酷な草原の環境のなかで、騎馬の民は全身を使っていきている。この様な大自然の下で生きていると、自然に、宇宙的で、何か神さまみたいな、仏さまみたいな、おおらかな気分になってくるのであろう。草原の中を車で走り、馬の家族やラクダの家族のパオを、突然に訪れたことがあったが、その時、突然の来訪であったにもかかわらず、いやな顔ひとつせず、悠然として、きざみこまれたしわの中に、笑顔さえみせ、その一挙手一投足の仕草のなかに、ほんとうのやさしさと温かさが感じられた。
大草原では、青々とした草花が寄りあい、小さな花をさかせ、虫は飛びはね遊び、命を携えつくして生きている。鳥は大空で歌をうたいながらさえずり、馬も全力でどこまでも自由に駆け、ラクダもひつじもあてもなく歩き、どこにむかって流れようとしているのか、河の水は、ひとときも流れを止めようとしない。
このような情景をみていると、人間の身体の底に記憶されているものは、太古から何もかわらず、真なるものを求め続ける生き方、地に足をつけての根源的な生き方、この大自然の空に向かって、ひとりひとりが自由に命を全うする生き方、空気、水、風、地、火、光に育まれ共生しての生き方が、人間にとって一番の幸せなことではないかと思われるのである。