えんぴつの旅
ちいさなえんぴつ
吉 永 邦 治
子供の頃、朝から晩まで本当によく遊んでいた。何をしていたのかというと、いつも竹や木や粘土をつかって、職人のように、何かを作っていた記憶がある。今思うと、それは様々な体験を通して、内なる自身の心の様相を発見しようと模索していた時期であったかも知れないし、同時にまた、ちょうどひとつひとつの素材を知らないと、美味たる料理ができないのと同様に、私自身の心の素材を発見しようとしていた時期でもあったかもしれない。
その後、三〇年あまりにわたって、オリエントからアジア各地にかけて、心の素材を求めて、旅をしつづけきたが、そこには、日本もかつてそうであった、なつかしい風景が広がつていた。朝、太陽と共に人びとが起き出し、夕日がしずむと、寝ぶくろにはいるという、自然と一体となった生活スタイルが今も営まれているところもある。
現地の光の中、微風にふかれ、木陰に枝葉がこすれあう音を耳にしながら、夕がた暗くなるまで路上にたたずんで、この広大な風景を、スケッチブックに、えんぴつをもって走らせ描いていると、そこには、喜び、悲しみ、楽しみ、苦しみなどをこえた、人間の本性なるものすなわち実なるものが映し出され、人間の叡知のようなものが伝わってきた。