吉永邦治氏の人と絵

吉永邦治氏の人と絵

加 登   亙

はじめて氏の個展を見たのが神戸ギャラリーだった。近頃珍しくいい絵に出会えたような気がした。その時、暫く、人の出合いについて不思議な話を聞くことができた。
その後二、三回、大阪での個展を拝見する。
氏の作品には、初見の時から独特の魅力があるのを私は感じていた。例えば、人間の姿である 八等身ではない、に十二、三等身と思えるほどの長身の遊牧民族が、まるで人間樹とも言うべきかあの広い大地につっ立っている。私にとっては未見の世界であり、先ずそこにひき込まれてしまった。
氏の絵の構図は実に大らかだ。その中で刻み込まれていく筆触は氏の思いそのままの堆積であり、それが沈着して深い味わいあるところに私は魅かれる。
さらに嬉しいことはどこか詩的な匂いが感じられるのである。
かつてこのような絵があったであろうか。
氏の話によると、はじめドイッヘ行き、インドヘ廻り、高野山に登った、そして山口長男に出遇う、その歩みに迷いがなく、語り口は筋が入って落ち着いていられる。
後にわかったことだが、私が高野山で出会った小金丸氏と親しい間柄のようで、いい人間は自然に寄り合うようにできているものかなと感心したものだ。
氏の言葉の中で印象深いものを一つ。作品を世に出すまでは手許に良く置き、鑑賞に耐え得ると自信がついてから発表するという。作品への愛情、謙虚かつ慎重、氏は誠実の人なのだ。
また、氏のすすめていられるデッサン集や著作の計画性あるところにも注目したい。

数年前にお会いした氏はこのようであり、自らの什事を着実にすすめ得る能力のある人たから私は人いに期待している。
一九九八年七月

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