この人この本
西から東へ―美の根源を探る
『白と赤の十字路』
吉永邦治さん
《ドイツ、フランス、スペインからインド、東南アジア諸国、中国へ。若い洋画家が美の根源を訪ねた紀行集。西洋美と東洋美、その底に流れるものは、何か。異文化との触れ合いの中で感じたこと、考えたことを率直に、時にはユーモアをまじえ綴っている。著者は大谷女子短大、羽衣学園短大の講師。ドイツで西洋美術、建築、陶芸を研究したあと、高野山大学に入り仏教美術を学んだ》
━━二十年間の”成果”だそうですね。
「初めて外国(パリ)に出たのが二十歳の時、いま四十歳になって、自分の中にたまったものを一気にはき出したような気持ち。二十年間に見たり聞いたりしたこと、それから得たものを、絵を描くのとは別の形で表したかった。絵だけでは表現できないぼくの思いを知ってもらおうと・・・」
━━美の遍歴で得た最大の収穫というと?
「多種多様な民族、われわれとは価値観の違う人達に直接触れあえたことです。日本人なら誰もが<まさか>というような体験もしましたが、ぼくが驚いた事柄も現地の人にとってはごくあたりまえの事ばかり。異質の価値観をつきつけられて、目からウロコが落ちた思いをしました」
━━画業にも発想の転換を迫られたわけですね。
「日本人だけの通年、常識ではかれないもの、自分の周辺の習慣が考え方と正反対といえるものの中に、別の意味があり、行き方があるという事を認めさせられた。私とか身内、マイホーム、自分の国といった固定的な考え方では、本当に想像的なものは発見できないと思うんです。常にやり直し、みなおす精神がないと・・・。それを教えてくれたのが、旅で出会った人たちなんです」
━━タイトルの”白”と”赤”が意味するものは?
「ひと口にはいえないが・・・。人間の一日を異論いなおすと、昼は赤や黄などの有彩色の世界、夜は白と黒の無彩色の世界。人の一生も、この有色界、白と赤という色で、人間そのものと生から死、そsの間の営みなどの全てを象徴させたつもりです」
━━仏教美術、ことにマンダラ(曼荼羅)図に興味を持っておられるとか。
「ぼくのいう<白と赤の世界>を表したものですからね。いってみれば、人間の生命の証(あかし)を図像化したもの。もっとも空海が中国から持ち帰ったと言われる曼荼羅図は、しょせん空海でないと其の理解はできないでしょうが・・・。(高野山にある図にも)僕は僕なりの解釈で、いま生きていることの証を探しているつもり。絵を描くときも、自分流の考えで、僕自身のマンダラ図をつくるよう心がけている。多くの人たちとの出会いから得たもの、今後も出会うであろう人たちとの新しい世界、それらを生涯かけて描きたいと思っています」
━━産経新聞大阪本社で。 (畠)
(京都書院・二八〇〇円)