2004年9月7日(火) 新聞

20040907新聞画面

吉永邦治個展「シルクロードと飛天の世界」

吉田萌子

失いかけた夢想の世界を形象

飛天の干支研究で知られる大谷女子短大教授吉永邦治氏(六〇)の個展「シルクロードと飛天の世界」が五月二日から九日まで、田中市村記念美術館企画展示室で開かれました。吉永氏は川内市の出身。高野山大学卒。ヨーロッパ各地、エジプト、ギリシャ、中近東、インド、ネパール、チベット、中国、東南アジア、韓国など西洋と東洋を三十五年間旅し、「飛天」などをテーマに東洋美術の研究を重ねながら、悠久の地の風土や風物、人物などを描き続けています。「飛天」「東洋の造形」「吉永邦治素描作品集」など著書も多く、特に「白と赤の十字路」(図書館協会選定)は実に愉しく読めます。
吉永氏によりますと、飛天は「ひとたび天界から地上に向かって飛翔すると心の中に安らぎと希望などをもたらし、人間の失いかけている夢想世界をイメージさせてくれる世界」「言葉で言い表せないほど広がりと深さを持って私に語りかけてくる」と言います。
吉永氏の作品を初めて見たのは六年前。東京・新宿のデパートギャラリーで開かれていた個展でした。見る人の心をいやす作品に感動し、以来、何度か見る機会に恵まれました。昨年、私は「神高い奄美は先生のキャンバスにきっとマッチするに違いない」と奄美にお誘いしました。こうしたご縁があって今回、個展の運びとなったわけです。
吉永氏は奄美について次のように述べています。「青い水平線が三六〇度広がって宇宙まで果てしなく繋がっているように感じる南海の島・奄美の地に触れた時、母の胎内にいるように温かく伸びやかな思いに浸っていた。亜熱帯の光り輝く海や森の中を、風を吹かれて旅するうちに、自然の気が自身の中にあふれてくるように感じた。地球の青さ、宇宙の青さを感じる子の甘みは天空を飛翔する飛天に通じる・・・。」
会場は二つのコーナーに分かれ、一方は「東洋の国々の風景と人物画」、他方は「飛天と釈迦の十大弟子の素描」。約四十点が展示されていました。「宙に舞う飛天」「飛天と主に空へ」「天皇飛天」の三作品は壁一面に天井からつるされ、まるで天女が舞い降り、時空間を舞っているような感じでした。
また、ガラスケースいっぱいに掲げられた釈迦の十大弟子の顔(縦百センチ、横九十センチ)とその表情の鋭さには度肝を抜かれました。作者は、インドのラジギームの丘に登ったそうです。二千五百年前、釈迦が十人の弟子に説法したと言われているところです。そこには十体の石碑があり、見ていたら十人の弟子の顔が次々に浮かんできたということです。三十年かけて仕上げた迫力ある作品です。
会場には子どもたちもたくさん訪れ、「とてもきれいな絵でした」「大変感動しました」などの感想が寄せられていました。一村記念美術館には、今後もこうした子供たちの可能性を引き出すようなイベントを企画していただきたいと思います。そして、家族や地域がふれあえる場として活用され、島人の宝をはぐくむ美術館として充実することを願っています。
(一村会会員)

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