草洋の道
満天の星のなか
吉 永 邦 治
草洋となづけられたように、はてしなくひろがり続く草原、風がふくと咲き乱れた草化か、波のようにゆれ、その何んともいえない香がたちこめてくる。
遠くには、草原の中をゲルからゲルヘハタをかかげて、矢のように疾走している騎馬の姿、また、長い馬捕り竿(オールガ)をもった男達の雄姿がみられる。夏の祭典、ナーダムでは原色の民族衣裳をつけた、騎手が、たくみに馬をあやつり、「トゥムニー・エヘ」すなわち一万頭の先頭をめざしての競馬がくりひろげられる。
このような昼の光景から。転して夜になると、あたかも、地球が宇宙に浮いているかのように草原の向こうに、満天の星空が広がっている。そんな中、まるで宇宙船のような白いパオ、そのパオにもたれかかり、星空をみながら、恋人運が、愛を語りあっている声が、こころよい虫のなきごえとともに風にのって星空にきえてゆく。
その白いパオに住む馬の家族やラクダの家族等をたずねて歩くと、或る時は、馬乳酒のもてなし、また、或る時は、馬頭琴をかなでての心からの歓侍を受けるのである。
満天の星のなか、あちこちのパオで、馬乳酒をくみかわし、馬頭琴の調べにのった歌声が…草原にひびきわたり、夜のやみにきえてゆく。このような場に身をゆだねていると、私の心も、しだいに草原の風に満たされてきて、生まれてきてよかったと、しみじみと思うのである。