吟  風

吟  風

田 中 妙 陽

春まだ浅い頃、ご縁をいただいてお訪ねした吉永先生のアトリエで、あの赤い天山山脈に出会った。山々の峰を吹き抜ける風の音に驚き、風にのって運ばれてくる大地の香りに、只、茫として立ちつくしてしまった。
「なつかしい」何故かひたすら懐かしい思いで胸が然くなり、動くことができなくなってしまっていた。
描かれた画の世界には、遠い遠い遥かな世界からのメッセージがいっぱい詰まっており、画中の人々の、動物たちの温かくてやさしい、あの輝く深い啼が絶えることのない調べで語りかけてくる。
風と光と音が両の中から溢れ出し、不思議の世界に誘われゆく。これは吉永先生の魂からの贈り物なのだと思う。
今まで出会ったことのない不思議な揺らぎと安らぎの世界。こんなにも身近に遥かな遠い世界を感じることの出来る画に出会ったことの衝撃はまだ続いている。

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