山口さんを私淑する吉永邦治君…

山口さんを私淑する吉永邦治君…

田 代 光 雄

私は交際の広い方ではないが、それでも、七十余年の間には相当いろいろの人を知っている。その中でも最も親しくし厚誼を得て、三十年以上人生の師と仰いだ方がいる。
山口長男さんである。年に数回は、鹿児島の拙宅まで、「定期便です」と訪ねて来られ、必ず教日は滞在された。夜更けまで、二人で焼酎三分お湯七分で伊佐美をゆっくり時間をかけて飲みながら、毎晩同じ様な話をしていた。
山口さんは幼児の稚拙に見える絵でも、決して下手とは言われなかったが、めったに一人の人物を取りあげて特に誉めることも無かった。此れを貴方に預かって来たと、金山平三の絵を新潟からぶらさげて来られたり、ルネマルグリット展、パウルクレー展を見たからと図録を持って来て下さった。似た者同士というか、一九八〇年東京国立近代美術館で、山口長男、堀内正和展があった。不思議な縁で堀内止和夫妻とも親しくさせて戴いている。山口さんが教えた画学生は澤山あったと思われるが、この人は姿勢が良いと誉めた、数少ない人の中に、山口さんを私淑する、吉永邦治君があった。
洲之内徹氏は「良い絵は香がする」と言って居られたが、「山口長男、吉永邦治、洲之内徹」の三人が並んだ寫眞が手元にある。

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