飛天~二十一世紀への飛翔~

飛天~二十一世紀への飛翔~

澤 田 祐 介

天衣をを纏い空中を飛行する飛天は、その期限をエジプト、メソポタミアに持つという。西に飛び行きては、かのサモトラケのニケやキュー ピッドのような有翼の神々とない、東に飛来しては翼の代わりに羽衣を纏い、敦煌、雲崗、天竜山にて憩い、ついには法隆寺金堂を終の棲家と定めた。
一端故郷を離れた双子の飛天は、数千年の別離の果てに、終には別人と見まごう姿となった。「東は東、西は西。この二つは決して出会うことはないだろう」と はキプリングの余りにも有名な一節だ。しかし、今少しこの「東と西のバラード」を読み進めば、そこには新たな世界が開かれてくる。
「……二人の強い男が地球の両端から来ても、顔を合わせれば東も西もなくなり、国境、種族、血統をも解消するだろう。」
吉永邦治はヤヌスのような両家だ。恵果和尚から唯一人直伝された僧堂仏教から、最も日本的な民衆仏教へと変化させた空海の衣鉢を纏いつつ、山口長男という近代前衛抽象画家への眼差しを、片時も忘れることはない。この二つの顔を持つ男の内部から、新たな飛天が生まれた。
吉永飛天は、数千年の別離の後、ようやく出会えた双子の飛天の、歓喜溢れる見事に飛翔する姿でもあろう。国家を越え、民族の隔たりをなくし、東と西の全ての美を愛する人々に、時空を超越したその華麗な舞を、二十一世紀に向け、益々充実させていただきたいものだ。
(東海大学医学部教授)

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